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Cancer Genomicsのセカンド・ステージ
癌ウィルスの研究で有名なノーベル賞学者ダルベッコ博士が、「癌のような複雑な病気を理解し、治療するためには癌に関する全ての遺伝子を調べなくてはならない。これには断片的な方法でも可能であるが、全てのヒトゲノムを調べる方がはるかに効果的である」という主旨のコメントを 1986年にScience誌に寄稿した。これがきっかけとなりヒトゲノム解析プロジェクトが計画され、全塩基配列の決定を第一目標としたヒトゲノムプロジェクトが1990年より始動した。そして、当初の予想より早くヒトゲノムの概要配列決定が成し遂げられた。得られた膨大な成果は、2001年2月15日付けでNature誌が、翌16日付けでScience誌が、ともに「The Human Genome」のカバータイトルの特集を組んで報告した。さらに2003年4月14日、日米英仏独中の6カ国のゲノムコンソーシアムより同時にヒトゲノム塩基配列完全決定の宣言が発表された。時は、Watson & CrickによるDNA二重らせん構造の発見後50年目に当たる。
ヒトゲノムプロジェクトは、生命の設計図とも言えるヒトゲノムの一次構造に基づく遺伝情報を明らかにしただけではなく、一方で自動シーケンサーやDNA チップ、マイクロアレイなどのデバイス、さらに遺伝子構造やタンパクモチーフを予測するソフトウエアといった多くの先端的ゲノム解析ツールを創出した。また研究資源である完全長cDNAやBACクローンなども充実させ、その情報はあらゆる研究者に利用のチャンスを提供している。
細胞遺伝学の領域においても目覚ましい技術革新が展開され、FISH法とその応用法の開発を実現した。新しい標識化合物や蛍光色素の開発、さらにCCDカメラを代表とするイメージ捕捉装置とこれに連動する画像解析システムの導入により、24種類の染色体を区別するSKY法や高分子DNAを試料に用いて染色体コピー数の異常を検出するCGH法やそのマイクロアレイ検出システムなどが実現している。
一方、白血病などの造血器腫瘍では、古典的な染色体分析から病型特異的な染色体転座が知られており、その切断点からは癌化に直接に関与する遺伝子が同定されてきた。既に 2000年の時点で、NCBI(米国国立生物学情報センター)が公開するゲノムデータベースには、種々の臓器や腫瘍から調製された 160種類以上のcDNAライブラリーを資源に得た 760,000種類以上のEST塩基配列(3’ と5’の配列を併せた数は約1,500,000 種類以上)が収載され、さらに、これらの中から配列の重複を除いた約87,000種類が Unigeneとして登録されていた(文献1)。ヒト遺伝子の実数が 40,000足らずであると判明すると、Unigeneの約 60%は同一遺伝子でありながら別の領域の配列であったり、あるいは遺伝子以外のDNA 配列であると推定できる。しかし、既にこの時点でほとんどのヒト遺伝子の部分配列情報がこのNCBI のデータベースに収められていることを意味している。このような成熟したゲノム情報の科学的環境においては、腫瘍に特異的な染色体転座やホモ欠失、あるいは遺伝子増幅などの nonrandomなゲノム構造異常を見つけだすと、それは癌関連遺伝子の同定に直結する。実際、多発性骨髄腫では、この数年間で免疫グロブリン重鎖遺伝子(Ig)との新規転座パートナー遺伝子の幾つかが明らかにされて来ている。さらに、 CGH法とその応用のCGHアレイ法は新規遺伝子増幅領域の発見を可能とし、これらの領域から癌の浸潤・増殖や薬剤耐性などの悪性形質の獲得に関与する新しい癌関連遺伝子の同定が進められている。
増幅の標的としてERBB2 やEGFRなどは古くから知られていたが、これらは現在、分子標的治療の好個のターゲットとになっている。 ERBB2増幅のある乳癌では抗ERBB2 抗体(トラスツズマブ)が治療に応用され、効果を上げている。また、その適応の決定には FISH法によるERBB2 コピー数増加の検出がエビデンスとして利用されている。また、ゲノム情報やクローン資源の充実は遺伝子発現の網羅的・体系的解析を可能とする DNAチップやマイクロアレイ技術を実現した。数千〜数万個の遺伝子発現の全容を一度に知ることが可能になり、 SAGE法などによって得られるデータと併せトランスクリプトームという学問体系を作り上げている。さらに微量蛋白の解析技術や質量情報、配列情報の充実、プロテインチップの開発によりにプロテーム解析技術も急速に進み、発現レベルの high-throughput解析も行われ、癌細胞で発現変化を遂げる複数の遺伝子が明らかにされてきている。これら大がかりな発現解析の結果は、 CGH法やLOH 解析で得られているコピー数の変化に対応づけた分析もなされてきており(文献2)、腫瘍細胞に出現するゲノム一次構造の nonrandomな異常の検出とその詳細なデータベース化は、発現解析で得られる癌関連遺伝子候補の中から“ Real Target”を選別するプロセスにおいて、一層重要な位置を占めてきている。
腫瘍細胞では、遺伝子増幅のように限られた領域に特定した増幅ではなく、1本の染色体が丸ごと増えるというコピー数変化が、ある特定の染色体で高頻度に、しかも特定の病型で起きることが知られている。この「癌細胞で特定の染色体が1本増える」ことが遺伝子の発現にいかなる影響を及ぼしているかは不明であった。しかし、最近、55,000個の遺伝子をスポットしたマイクロアレイを利用して、コピー数の増加した染色体に座位する遺伝子2,146種類に関して、コピー数と発現の関連が調べられた。その結果、コピー数の増加と発現上昇を共に検出する遺伝子は81種類(3.8%)と極めて限られていることが明らかになった(文献3)。
現在のポストシーケンス時代において、疾患遺伝子の同定は疾患特異的ゲノム異常発見が鍵を握るといっても過言ではない。 Cancer Genomicsは、詳細なゲノム構造異常の収集とそのデータをトランスクリプトームやプロテオームで得られる情報とを統合し、これらをフルに利用して癌のバイオマーカーや治療の標的となる分子を探索するというセカンド・ステージに立っている。
参考文献
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